2024年1月17日水曜日

連載「心販研コラム 心理のこまど」

 

 連載「心販研コラム 心理のこまど」
心販研12社による持ち回りコラムです。
出版営業のちょっとした呟きから、本づくりの現場の空気を味わっていただければ幸
いです。
今月の担当は明石書店様です。


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〇本が売れないと言う前に

 「今日はどんな本かな~、このワンプとくときが一番ワクワクしますよね!」

 もう辞めてしまったが、以前営業部にいたAさんがいつも、届いた新刊の包み紙を破りながら言っていたことばを思い出す。


 当時は、いやいや「どんな本かな~」って、ゲラも読んだしカバーも確認したし、編集者の熱いプレゼンも聞いたでしょって、心の中でツッコミを入れてたもんだった。だが、アレは、初めて手にする本への期待や興奮だけではなく、自分はこの本を売りたい、売らねばならないといった緊張や覚悟や矜持が込められたワクワクだったんじゃなかろうか、と今にしておもう。


 さて、本が売れない、業界厳しいと言われて久しいが、今年はそれをあらためて実感する1年だった。

 取次の配本規制に加えAmazonの発注数減少、また「マーケットイン」などとは距離を置いていることもあってか事前注文が十分に集まらず、結果、配本数は限られ、作ったはいいが動かせない本は増える一方だ。それこそワンプも開けずに断裁せざるを得ない本もある。

 ついでに言うと、売上が伸びない中、原価は上がっているため利益減少は著しく、価格設定を再考しなければならない状況だ。

 もちろん、この数年間は特に、本を売るためのさまざまな策を講じてきた。

 企画の趣旨・意義を共有するため、会議は常に営業・宣伝のメンバーも参加しているし、売るための仕組みを整えるためマーケティングも学んでみた。さまざまなイベントや学会・研究会での宣伝・販売を強化し、また、SNS広告や新聞広告での宣伝も計画的におこなっている。

 なのに、売れ行きは鈍く、少し上向いたかとおもうとすぐに失速、日々の出荷額は常に、想定の金額を下回っていて、現状を維持するのが精一杯というのが実情…、ため息が増えるばかり。

 売りたい本があり、売らねばならない本があり、売れると嬉しい本があるのだが、本が売れない現実に喘ぐ日々。

 そんな時、Aさんの言葉を噛みしめながら自分に問いかける。「ワンプ開ける時、ワクワクしているか」と。



(明石書店 大江)


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